受験前のお正月をどう過ごすべきか、悩んでいる家庭も多いことでしょう。「正月から勉強漬けは避けたい」「親戚付き合いを疎かにできない」などさまざまな声を耳にします。
この記事では、中学受験を目指す受験生は、年末年始をどう過ごすべきなのか紹介します。
中学受験のお正月。塾や家庭教師の正月特訓を受けるべき?
いわゆる「正月特訓」を行う塾や家庭教師は多いです。正月特訓を受ければ、年末から年始にかけて、集中的に勉強を進めることができます。ただ、もちろん受験生全員が受けるわけではありません。成績に余裕のある子供や、家庭の方針で正月を休む受験生は毎年一定数います。
ただし、さすがに三が日丸々遊ぶ子供は少なく、せいぜい「元旦だけは息抜きした」程度です。家庭学習にせよ、正月特訓に参加するにせよ、受験勉強から何日も離れる選択はよほど余裕がないと難しいでしょう。
正月特訓を受けるかどうかは、その内容を吟味して決めるようにしてください。ひと口に正月特訓といっても、生徒のニーズに合わせて細分化されているカリキュラムもあれば、ざっくりと復習を進めるカリキュラムもあります。家庭教師の場合は、生徒のリクエストに応じてくれるところが多いですから、事前に年末年始のカリキュラムを相談しておきましょう。
志望校別対策の正月特訓であれば、合否を左右しかねないものなので参加するべきです。正月休み中、子供は焦りや不安から勉強の優先順位がよくわからなくなってしまいます。そういう時期に「この学校に受かりたいのならば、これをやるべきだ」と優先順位を整理してくれる授業があると、学習がはかどりますし心強いものです。志望校別ではなく不特定多数に向けた内容であれば、わが子に必要か不要かを見極めるようにしてください。
正月特訓を受けたいのに、実家への帰省を断れない!
「正月特訓を受けたいが、家庭の事情でどうしても帰省しないといけない」という嘆きも、毎年耳にするものです。誘いを無下に断れば、親戚間のトラブルに発展しかねませんから、無理に正月特訓に参加する必要はありません。
ただし、子供が「正月特訓を受けたい」と自ら主張している場合は別です。子供の要望を聞き入れないと、万一受験に失敗したとき「正月特訓を受けられていたら合格したかもしれないのに」と子供から責められかねません。
自分の合否より親戚付き合いを優先したと子供に思われてしまうのは、親として辛いところでしょう。実際、受験生が、「帰省なんてしている暇ないのに、周りはみんなわかってくれない!」と嘆いている姿を年末年始には見かけます。
子供がどうしたいかを事前によく聞いて、早いうちに調整しておきましょう。可能であれば一年ぐらい前から「来年のお正月は、正月特訓があるから来られないかもしれない」と親戚に伝えておくとよいです。具体的にどうするかまでは決まっていなくても、できるだけ早めの時期にその可能性がある旨だけは伝えておきましょう。
実家では「年末年始に孫が来る!」と張り切って、早い時期からプレゼントやおもちゃなどを用意し、あれこれと計画を練っているかもしれません。用意が無駄になってしまうと、感情的な衝突が起こりやすいので、先手を打っておくことが大切です。
正月特訓を受けさせたいのに、子供が休みたいと主張
親としてはわが子を正月特訓を受けさせたいのに、子供が首を縦に振らないケースもあります。帰省をすればお年玉がもらえたり、年の近い親戚と遊べたりするからです。そうでなくても、日々勉強漬けですから正月ぐらい休憩したいと考えている子供はたくさんいます。
「受験本番まで日がない中、ライバルたちが一分一秒を惜しんで勉強しているのに」と親としては不安に思う向きもあるでしょう。ただ、そこで無理やり正月特訓を受けさせても成果は期待できません。子供がやる気をもって授業を受けなければ、お金だけ払う事態に陥りかねないのです。
なるべく本人の口から「正月特訓を受けたい」という言葉が出るよう促しましょう。
正月特訓を受けさせたい!「NG」な会話例
よく見かけるのはこうしたやりとりですが、できればすぐに「行きなさい」と促すのではなくワンクッション置いてみてください。また、「他の子供が参加するから行け」という理屈だと、その子にとって本当に必要なものかどうかが伝わりません。
正月特訓を受けさせたい!「GOOD」な会話例
なるべくポジティブな言葉で子供を説得してみます。このときに子供の言葉を遮らず、子供の主張を一旦は肯定しましょう。
子供はこちらの主張を理解する気のない大人や上から目線の物言いにカチンときてしまう傾向にあります。子供とのやり取りの中で、「ダメ」と言いそうになったら、「そうだね」と共感の言葉に変えましょう。まずは気持ちを受け取ってから説得するのが大切です。
正月に家庭学習をするなら、どんな進め方をする?
正月に家庭学習をする場合、どこから勉強すればよいのでしょうか。まず、頻出単元の中で苦手な単元がはっきりしているのであればそこから手をつけます。
正月であれば、志望校の過去問を解き終わっているはずですから、ミスを再度見直し、まだ解けない問題はないかどうかをチェックしてみてください。よく「過去問と同じ問題はまず出題されないから」という理屈で、過去問のやり直しを疎かにする子供がいますが、それは間違ったアプローチです。
解ける問題だけ解いても実力は上がりません。たしかに全く同じ問題は出ませんが、似た傾向の問題は出る可能性があります。間違えた問題をやり直し、類題をやり直したら、その単元内で苦手なタイプの問題がないかどうかまでチェックしておくとよいです。
冬期講習の塾講師や家庭教師にも「ここを優先したほうがよい」という箇所がないか、事前に確認しておくとより無駄がありません。
ただ、この時期は塾や家庭教師の意見だけを採用するのではなく、家庭側から見た不安な単元と塾側から見た不安な単元を擦り寄せて、改めて優先順位を検討するとよいでしょう。そのほうがやり残しを防ぐことができます。
ドタバタしていて落ち着いて勉強できない場合は
正月中は人の出入りが多くなる家庭もあります。落ち着いて勉強できる環境にないのに、頭を使う問題を片付けようとしても難しいでしょう。できるだけ作業的にこなせる内容を優先するとよいです。たとえば漢字の書き取りやことわざ、慣用句の暗記、公式の暗記など、「考える」作業が少ないものを選びます。中断しやすいかどうかを基準に学習内容を決めてください。算数の文章題などは向いていません。
可能であれば、親はあらかじめ来客に「子供が受験勉強中である」旨を伝え、あいさつ程度で済むよう配慮してあげるとよいかもしれません。もちろん、子供が勉強よりもたまの来客との親交を優先したいようであれば、その気持ちを汲んであげることも大切です。気が散って中途半端になってしまうぐらいなら、思い切り遊ぶ日を一日設けて、翌日から切り替えたほうが効率的でしょう。
親の都合と子供の都合。摩擦が表面化しやすい正月
ここで実際にあった正月のトラブルを2つ紹介します。
勉強に集中させて!祖父母宅で泣いたAちゃん
受験前で毎日何時間も勉強しているAちゃんは正月特訓を希望していましたが、帰省の関係で参加できませんでした。「毎年そうしているから」という理由で、父方の祖父母の家に泊まりに行かなければならなかったのです。
Aちゃんは祖父母のことは好きでした。しかし、今年はなんといっても受験目前。余裕がありません。両親になんとかならないか相談したものの、「帰省中止だけはできない」ときっぱり断られたため、仕方なく祖父母宅に教材を持っていきました。
しかし、なかなか思うように勉強は進みません。二階の一室を借りたはよいものの、なにかあればすぐに一階に呼ばれます。
親からは「帰省しないわけにはいかないの。Aちゃんは勉強だけしていればよいから、お願いだから一緒に行こう」と懇願されてしぶしぶ帰省を了承しました。ところが勉強だけしていればよいという条件はどこへやら、久々に孫と会えた嬉しさから祖父母は、やれ初詣だ、やれ挨拶だ、やれ正月遊びだと声をかけてきます。それが祖父母なりの気遣いだとは頭でわかってはいるものの、段々自分の気持ちを尊重されていないのではないかと悲しくなってきました。
祖父母が軽口のつもりで「勉強ばかりしていると逆にバカになっちゃうよ。少しは手伝って」と言ったところで、Aちゃんはわんわんと泣きだしてしまいました。
「だから帰省なんてイヤだったのに! 正月特訓行きたかった! 私が受験に落ちてもいいの?」と本音を吐き出し、一同は気まずい雰囲気に。その後二階にこもって勉強することを許可されたものの、お母さんいわく、「居たたまれなかった」そうです
「やっぱり、どれだけ言いづらくても、親がしっかり子供の気持ちを汲んで、『今年は無理だよ』と祖父母に伝えてあげなくちゃいけなかったんですよね」とお母さんは苦笑していました。
正月特訓が寝る時間に?無理に参加したBくん
Bくんは模試で第一志望校の合格ラインに届いていました。例年、正月は遠方にある祖父母宅に帰省します。それはBくんにとって非常に楽しい時間でした。今年も帰省するつもりでいたところに、正月特訓の話を聞きました。
Bくんが「今年はおじいちゃんやおばあちゃんに会いに行かないの?」と両親に尋ねると、「もう授業料を振り込んである。正月特訓に行きなさい。受験生は勉強第一」と当たり前のように諭されました。Bくんはガッカリです。自分の受ける授業なのに、親だけで勝手に決めてしまうのってどうなんだろう。そう思ったらふつふつと怒りがわいてきます。
いざ正月特訓が始まっても、ふてくされた気分を引きずっているせいでBくんは、全く集中できません。正月早々モチベーションがダウンしてしまったわが子の様子にびっくりした両親は、先生に相談しました。「まさか、帰省をそんなに楽しみにしていると思わなくて」とお母さんはため息。
もともとBくんは真面目な子供で、勉強もよくできます。ただ、あると思っていた楽しみが突然目の前から消えたせいで、思いのほかダメージを受けてしまったようでした。「正月特訓には参加して当然だという認識でいたものですから。お金を振り込む前に本人に一声かければよかったんでしょうけど」とお父さんは苦笑していました。
親の判断で決めるのではなく、なるべく子供の気持ちや状況を確認しながら物事を進めていくようにしましょう。
受験生の正月は勉強が基本。早いうちに子供と予定を共有しよう
中学受験の年末年始は基本的に勉強に当てるのがよいです。塾や家庭教師の正月特訓コースを選択するのをおすすめします。
ただし、塾の場合は、カリキュラムを吟味し、今本当に必要な内容を教えてくれるのか確認が必要です。志望校別の授業が受けられる場合は受けたほうがよいでしょう。自分の不足を補うような内容ではない場合は、家庭で必要事項をピンポイントに絞って学習するのもひとつの手です。
家庭教師の場合は、志望校に受かるためにやらなければならない課題を共有し、無駄のない年末年始のカリキュラムを考えてもらいましょう。
正月休みを楽しみにしている子供も多いですから、事前にどう過ごすかについてよく話し合っておいてください。一日ぐらい休みを入れたほうがモチベーションが上がるのであれば、そうしたほうがよいですし、逆に「休みたくない」と主張するのであれば、なるべく学習に集中できる環境を整えてあげましょう。ただし、大事な時期ですから、遊ぶにしても人混みだけはなるべく避けてあげてくださいね。