中学受験が盛んな首都圏において、地元の公立以外の進学先といえば、私立を第一に想像する家庭も多いことでしょう。しかし、今、都立が私立をしのぐほどの人気を集めています。この記事では、都立中高一貫校に入学するためにはどんな対策が必要なのか、どんな学校があるのかについて紹介します。
都立中高一貫校ってどんなところ?
都立中高一貫校はどんな特徴を持っているのでしょうか。
都立中高一貫校の歴史はそう長くない
都立中高一貫校の歴史はそれほど長くありません。2005年に白鷗高校附属中学校が誕生したのが始まりです。
私立中高一貫校より経済的な負担が少ない
都立中高一貫校には、家庭にかかる経済的な負担が私立中高一貫校より大幅に少ないというメリットがあります。そもそも、都立と私立では三年間にかかる学費に三倍以上の開きがあるのです。
「教育に力を入れたいけれど、私立中学に通わせるのは難しい家庭」は少なくありません。経済格差の大きい近年ではなおさらです。その点で、都立中高一貫校は魅力的な選択肢といえます。
併設型・中等教育学校・連携型の違いとは
都立中高一貫校は大きくふたつのタイプに分けられます。「併設型」と「中等教育学校」です。なお、都立中学・都立高校の中には「連携型」で中高一貫教育を実施している学校もあるので、あわせて説明します。
併設型とは
併設型とは中学校と高校が併設されているため、中学校に入ってしまえば高校には入試なしで進学できるタイプを指します。高校からの入学も可能ですが、高校からの募集枠を廃止する傾向が近年顕著です。
中等教育学校とは
中等教育学校と聞くと、字面から「中学の三年間だけ?」と勘違いしてしまいそうですが、そうではありません。中等教育学校は併設型のように、「中学校」と「高校」という括りで分けずに、六年間の一貫教育を行います。最初の三年が前期課程、あとの三年が後期課程です。高校にあたる後期課程からの入学は一切ありません。
連携型とは
「連携型」と呼ばれるタイプもあります。「連携型」は市と県、市と学校法人、あるいは異なるふたつの学校法人で中高一貫教育を実施するものです。たとえば近くに中学校と高校があった場合、教員や生徒が交流したり、カリキュラムで連携したりします。入試においても、一般的な調査書や学力検査ではなく、独自の資料で選抜できるシステムが採用されています。
システム | 特徴 | 高校入学 |
---|---|---|
併設型 | 併設高校へ入試なしで進学可能 | 学校による |
中等教育学校 | 六年間の一貫教育 | なし |
連携型 | 自治体やほかの学校法人と中高連携教育 | 学校による |
都立中高一貫校の一覧
現在、都立中高一貫校は10校です。千代田区立の九段中等教育学校の1校を足すと、計11校になります。連携型で中高一貫教育を実現している学校を除くと、以下のとおりです。
併設型
都立大泉高等学校附属中学校(練馬区)
都立白鷗高等学校附属中学校(台東区)
都立富士高等学校附属中学校(中野区)
都立武蔵高等学校附属中学校(武蔵野市)
都立両国高等学校附属中学校(墨田区)
中等教育学校
都立桜修館中等教育学校(目黒区)
都立小石川中等教育学校(文京区)
都立立川国際中等教育学校(立川市)
都立三鷹中等教育学校(三鷹市)
都立南多摩中等教育学校(八王子市)
区立九段中等教育学校(千代田区)
都立中高一貫校はどんなところが個性的なの?
標準的な公立校より授業時間が長く設定されています。また、立川国際や九段では海外研修があったり、武蔵では「地球学」、両国では「志学」などその学校ならではの学びが用意されています。
都立中高一貫校の「受検」対策って?
都立中高一貫校に入るためにはどのような対策が必要なのでしょうか。
都立中高一貫校は「受験」ではなく「受検」
私立中学校の場合は「中学受験」と表記しますが、都立中高一貫校の場合は「中学受検」です。なぜなら、都立中高一貫校の入学にあたって受けるのは「適性検査」であり、「入学試験」ではないためです。
中高一貫校の最初の三年間は義務教育に当たります。そのため、「都立である公立校が学力を理由に子供を選別する」というやり方はとりません。あくまで「適性」のある子供に門戸を開いているのです。
そうはいっても適性検査に学力は必要ですし、受検対策も欠かせません。そのため、受検する家庭から「なんだ、試験じゃないなんて建前じゃないか」と思われても仕方ない一面もあります。
ただし、私立中学校のように、早期から受験勉強しなくてはまるで歯が立たないようなハイレベルな問題が出るわけではありません。あくまで教科書準拠です。加えて、科目別の出題ではなく複合的に問題を考える力が求められます。
適性検査の難しさはどこ?
適性検査の難しさは、暗記で知識を詰め込む勉強法では歯が立たないところです。求められるのは読解力、思考力、表現力といった力で、問題をよく咀嚼した上で解答を記述しなければなりません。考えた内容を文章におきかえて伝える力がないと、まず合格は難しいです。
そのため、ある程度の学力がある子供でも、問題は理解できるのにマルがもらえない事態に陥ります。問われている内容に的確な文章で解答する力が不足しているのです。
適性検査の出題形式
適性検査は「適性検査Ⅰ」「適性検査Ⅱ」、学校によっては「適性検査Ⅲ」を足した三つの検査で構成されています。適性検査Ⅰは文章読解、作文で、国語分野の内容です。適性検査Ⅱは大問が3つ出題されます。それぞれ算数分野、社会分野、理科分野からの問題です。適性検査Ⅲは理数系ですが、どういう分野から出題されるかは学校によって異なります。
千代田区立である九段中等教育学校を除き、都立の試験問題は共同作成です。各学校ならではの問題は主に適性検査Ⅲで出題されます。独自の問題をどの程度出題しているのかは、学校によってバラバラです。2021年度は以下のとおりでした。
21年度各校の出題傾向
独自問題の出題枠 | |
---|---|
桜修館 | 適性検査Ⅰ |
適性検査Ⅱの問二(算数) | |
白鴎 | 適性検査Ⅰ |
適性検査Ⅲ(理数) | |
三鷹 | 適性検査Ⅰ |
適性検査Ⅱの問二(算数) | |
小石川 | 適性検査Ⅱの問二(社会) |
適性検査Ⅲ(理数) | |
武蔵 | 適性検査Ⅱの問二(社会) |
適性検査Ⅲ(理数) | |
南多摩 | 適性検査Ⅰ |
立川国際 | 適性検査Ⅰ |
富士 | 適性検査Ⅲ(理数) |
両国 | 適性検査Ⅲ(理数) |
大泉 | 適性検査Ⅲ(理数) |
※なお、2021年度は桜修館・立川国際・三鷹・南多摩に適性検査Ⅲはありませんでした。区立である九段はすべて独自の問題を出題しているため、上記には含めていません。
適性検査だけで合否は決まらない
適性検査に受かれば都立中高一貫校に合格できるのかといえば、そうではありません。なぜなら、適性検査以外に、報告書の点数が加味されるからです。報告書の点数が占める割合は二割から三割程度です。
2021年度は白鷗、両国、大泉、三鷹、南多摩、九段の6校が二割、小石川、武蔵、立川国際の3校が二割五分、桜修館、富士の2校が三割でした。
では、通知表の結果がよければ、報告書の点数が大きな割合を占める学校で有利になるのでしょうか。これは一概にそうとはいえません。通知表=報告書の点数ではないためです。
報告書の点数の対象になるのは、五年生と六年生のときの九教科の成績で、九段だけは四・五・六年生の三年間が対象になります。報告書の点数は、改めて各学年の教科ごとに三段階で成績をつけ直したものですから、通知表の評価とは多少変わってくる可能性があるのです。どんな点数がついたのか、家庭が知る機会はありません。
報告書の点数が占める割合
報告書の点数が占める割合 | |
---|---|
白鷗 | 二割 |
両国 | |
大泉 | |
三鷹 | |
南多摩 | |
九段 | |
小石川 | 二割五分 |
立川国際 | |
武蔵 | |
富士 | 三割 |
桜修館 |
いつから受検対策をすればよいの?
私立中学受験は三年生の二月から始める家庭が多いですが、都立中学受検は私立中学受験ほど問題の難易度が高いわけではありません。五年生から対策を始める家庭もありますし、六年生からの家庭もあります。区立の九段を除き、報告書の点数が五年生から対象になる現状を考えると、五年生から対策を始めることをおすすめします。
ただ、これは「受験する子供の学力がどの程度か」「文章力があるか」などによって左右されるところでしょう。低学年から学校の勉強につまずいている子供の場合は、早い時期から総復習に臨み、弱点を克服しなければなりません。逆に、学校の勉強に問題なく、読解力や記述力も一定程度ある子供の場合は五、六年生から対策を始めても十分間に合うこともあります。
塾や家庭教師といった教育サービスでは、五年生から専用コースを設けているところが多いです。教材を購入して独学で臨むやり方もありますが、出題傾向を把握している教育サービスは限られた時間の中で無駄のないカリキュラムを展開しているため頼りになります。
子供にとって最適なサービスはなにかをよく考えて、活用するとよいでしょう。
私立中学校で適性検査を採用する学校が増えたのはなぜ?
私立中学校の中には、都立中高一貫校と同様に、適性検査を導入する学校が増えてきています。ただし、上位校以上には少ないのが現状です。この背景には、あわよくば都立をはじめ公立中高一貫校で不合格になった優秀な生徒を確保したい狙いがあります。
公立中高一貫校の受検対策は私立中高一貫校の受験対策とはまるで異なるものです。出題される問題の傾向も難易度もまるで違います。そのため、公立中高一貫校が第一志望の人間が私立中高一貫校を滑り止めで受験するのは難しいでしょう。
しかし、適性検査を採用している私立中高一貫校であれば、話は別です。同じ受検対策で合格を狙えるのですから、第二志望以下に位置付けることができます。
第二志望以下で併願してもらいたいと考えるのは中堅校以下です。そのため、適性検査を導入する学校は中堅校以下に集中しているのです。
都立中高一貫校の倍率は高いの?
都立中高一貫校の倍率は、学校によって大きな開きがあります。しかし、最低ラインでも三倍以上であり、人気の学校となると七倍近いです。これは、私立中高一貫校よりもかなり高い倍率と言ってよいでしょう。
具体的な倍率を高い順に見ていきましょう。
倍率 | |
---|---|
両国 | 6.70倍 |
桜修館 | 5.81倍 |
大泉 | 5.70倍 |
白鴎 | 5.49倍 |
三鷹 | 5.44倍 |
南多摩 | 4.94倍 |
小石川 | 4.64倍 |
立川国際 | 4.48倍 |
富士 | 3.11倍 |
武蔵 | 3.04倍 |
2021年度都立中高一貫校は一律で2月3日が受検日でした。つまり、併願できない仕組みになっています。せっかく勉強しても、これだけの高い倍率、しかも一校しか受けられない仕組みであれば落ちる可能性のほうがはるかに高いわけです。
こうした事情を知ると、受検するのを躊躇う家庭もあるかもしれません。しかし、実は都立中高一貫校は、ここ数年が「受けるチャンス」といえます。なぜなら、2021年度には武蔵と富士、2022年度には両国と大泉が高校の募集をやめたのです。ちなみに、2023年度には白鷗が高校の募集をやめることが決まっています。
高校の募集をやめるということは、中学の募集での定員増を意味します。そのため、必然的に倍率が下がるのです。この傾向は恐らく他の学校でも続くでしょう。都立中高一貫校を狙うチャンスの時期だともいえます。
都立中高一貫校の進学率ってどうなの?
親が子供の進学先を選ぶ際には、やはり難関大学への進学率は外せないポイントです。都立中高一貫校は、学校によって差はありますが、難関大学への進学率でもよい実績を出しています。たとえば、2021年度だと小石川からは東京大学に18人の合格者を出しています。続く武蔵からは9人です。大泉からは6人、立川国際からは4人。各校とも、ほかの難関国立大学や医学部にも合格者を出していて、高い実績があることがわかります。
都立中高一貫校の出題傾向をよく知って、高倍率を突破しよう
都立中高一貫校は、費用においてもカリキュラムにおいても進学実績においても魅力がいっぱいです。だからこその高倍率ですが、高校の募集を廃止する学校が増え、その分、中学の定員が増えている今は狙い目であるともいえます。中堅以下ではありますが、適性検査を採用する私立中学校が増えているため、滑り止めの受検もしやすいです。
都立中高一貫校受検は昔と違って、記念受検をする子供は減っています。合格を目指して受検対策をしてから、試験に臨んでいる子供がほとんどです。問題に必要な知識はあくまで教科書準拠。ただ、得点につながる解答が書けるようになるには訓練が必要となります。まずは、過去問や問題集をチェックして問題の出題傾向を知ってください。
家庭では子供の興味を広げるサポートをしておくとよいです。適性検査Ⅰの作文のテーマは、日頃から物事に広く関心を持っていないと、まったく歯が立たない可能性もあります。都立中高一貫校を狙うのなら、低学年のうちから子供にいろんな経験をさせ、知識や感性を豊かにするための環境を整えてあげることをおすすめします。
都立中高一貫校の人気と双璧をなすのが大学付属校です。「大学付属校を受験したい。難関校受験との違いってなに?」では大学入試改革とともに一気に人気が高まった付属中学校についてご紹介しています。是非ご覧ください。