秋になると、中学受験を目指す子供は、過去問を本格的にやり込むようになります。たいていの子供はそこで初めて、自分が合格ラインから「ほど遠い」という現実を知って焦るものです。この記事では、中学受験の過去問に挑む際に、何点ぐらいとれていれば受かる見込みがあるのか、どういうペースで仕上げていけば合格できるのかについて紹介します。
過去問をやる意義ってなに?
「過去問ってなんでやるの。受験本番では同じ問題なんてぜったいに出ないのに無駄じゃないの?」と子供たちはよく疑問を口にします。たしかに、まったく同じ問題は出ません。それでも過去問は絶対にやるべきものです。
なぜなら、過去問をやらないとその学校の出題傾向を把握することができません。出題傾向がわからないままなんとなく勉強しても、無駄が生じてしまいます。またテスト慣れも大切です。当日と似たような出題形式に慣れておくことで、テストの点はグンととりやすくなります。解答欄の使い方でミスすることがなくなりますし、時間配分の目安もわかりやすいです。いわゆる「捨て問」の判断もしやすくなるでしょう。
どんなテストでもそうですが、出題形式に慣れていないために、実力を発揮できない子供は少なからずいます。模試で二回目以降、急に成績が上がるタイプの子供は、慣れがカギとなります。過去問をやりこんでから本番に挑むようにしましょう。
過去問の入手方法って?
規模の大きい塾やベテラン家庭教師は、教え子が受けてきた試験問題のコピーをとってファイリングしているものです。実際に使われたフォーマットですから、本番がイメージしやすいでしょう。コピーをとらせてもらって挑戦してみてください。それ以外は基本的に「赤本」を買います。声の教育社から出版されている過去問を集めた問題集です。
過去問をやり始める時期・正答率・取り組み方
過去問に取りかかる時期や、正答率、取り組み方について紹介します。
上位校であれば九月、中堅校以下であれば十一月
早い子供は夏休みからすでに取り組んでいる過去問ですが、一般的には秋から始めるパターンが多いです。上位校であれば九月から始めましょう。中堅校以下であれば十一月からでも大丈夫です。
上位校の場合、出題傾向を押さえた問題に早いうちから取り掛からないと対策が不十分になります。一方、中堅校以下を志望する場合、九月の段階ではまだ過去問を解く実力が固まりきっていないはずです。ある程度解けるだけの学力を固めることを優先したほうが効率的でしょう。
ただし、子供が受験に楽観的で気が抜けてしまっている場合、現状を認識させるため、早めに過去問をやらせてみるのも手です。悲観的になりやすい子供には、無理して早い時期に過去問をやらせる必要はありません。この時期からよい点数をとれる子供はほぼいないので、結果を見て自信を喪失してしまうのは避けたいところです。
初めて過去問をやったときの正答率はどのぐらい?
初めて過去問をやったときの正答率が二割以下の場合は、強く危機感を持ったほうがよいでしょう。最低でも三割はとりたいところです。もちろん、志望校によって平均点は異なるので一概には言えません。志望校の合格ラインを基準にして考えるなら、半分に達していない場合は気を引き締めたほうがよいです。
そこから受かるかどうかは、本人がどれだけ無駄なく追い上げられるかにかかっています。模試の合格率とあわせて、受かる見込みがどのぐらいあるのかを塾や家庭教師に相談しましょう。
過去問が合格ラインの半分以下しか解けなくても、模試の志望校判定が40%以上なら可能性はあります。志望校判定がそれより低い場合も諦める必要はありませんが、併願校の見直しをして、「全落ち」を避けられるよう手を打ってください。かなり厳しい状況にあるという認識から始めることが必要です。
過去問はどこから始めるべき?
過去問をやるとき、「昨年度の問題は最後の実力試しにとっておきたい」と主張する子供はよくいます。しかし、最新のものを最後に回すと、時間が足りなくなって結局終わらないまま受験当日を迎えるリスクがあるので、あまりおすすめはできません。基本的には新しいものから始めて、徐々に年度を遡っていくやり方をとります。
過去問を始めるにあたっての注意点
できるだけ受験本番と同じ環境を整えます。制限時間を当日と同じように設定し、タイマーをかけておきましょう。よく過去問をゆっくりと時間をかけて解く子供がいますが、このやり方では、当然ながら本番の結果とは大きな開きが出てしまいます。
赤本を使う場合は、受験時と同じように印刷して臨むとより良いでしょう。本番がイメージしやすくなります。解き終わったら、可能な限り親が丸付けをしてください。子供に丸付けを任せると判定があやふやになります。国語は特に採点基準がわかりづらいため、親が解答をよく読み込み、減点ポイントを指摘してあげてください。
また、自信のない子供ほど解答を写そうとする傾向があります。だいたい、本人には写しているという意識はあまりなく、「少し参考にした」程度の認識です。悪気なく点数を底上げしてしまって実力がつかめなくなると困るので、過去問の解答集は親の管理下に置きましょう。
過去問に限った話ではありませんが、間違えた問題は、問題集に日付を書きこんでください。
過去問はどのぐらいやり込む必要があるの?
過去問はどの程度のやり込みが必要なのでしょうか。
超難関校かそうでないかによって何周やるかは違ってくる
御三家レベルの超難関校を受けるのであれば、第一志望校の過去問は二周しましょう。それ以外は第一志望の赤本を一周することを目指します。第二志望は過去三年分ぐらいが目安です。第三志望以下は最低でも一~二年分はやっておきたいところ。時間がなくても過去問に全く目を通さないまま本番に臨むのは避けたいものです。
中には「一周だけでよいのか」と不思議に思う人もいるかもしれません。しかし、この「一周だけ」は「解きっぱなしでよい」という意味ではありません。間違えた問題は解けるようになるまで何周もやり直してください。実際、「解けなかった」と言ってそのまま投げ出してしまうケース、「そこそこ解けた」と言って満足してしまう子供は多いです。
成績が上がりにくい子供は、やったことだけで満足してしまい「ちゃんと学力が身に付くやり方をしたか」を考えない傾向があります。まずは解説を読みながら間違えた問題を解き直し、その後、少し期間を置いてからミスをやり直しましょう。ミスした問題の横に日付を書き込んでおくとよいです。自力で解けるようになるまで繰り返し挑むことをおすすめします。
その上で、昨年もしくは一昨年の問題に再度臨んでみてください。ミスを除く基本的なやり込みは一周でよいですが、再度の実力試しも必要です。きっとグンと点数が伸びるはずです。
超難関校 | それ以外 | |
---|---|---|
第一志望校 | 二周 | 一周 |
第二志望 | 過去三年分 | 過去三年分 |
第三志望以下 | 過去一~二年分 | 過去一~二年分 |
不得意な単元が判明したら、どうやって勉強する?
受験問題は毎年異なりますが、算数の平面図形や立体図形のようにほぼ毎年出題される問題もあります。過去問を通して、「この単元が苦手だけど、頻出だしなんとか克服しないと!」と気づいたときどうすればよいのでしょうか。
基本的には今までの問題集を完璧になるまで周回することが大切です。受験勉強で成績が上がりにくい子供の中には「一回解いたから当日も解ける」と勘違いしているケースが多いです。本当に自力で解けるのか確かめて、テスト当日同じ問題が出たら得点できると確信できるまで何度もやり直してください。
この時期にやってしまいがちなのが、不得意な単元に特化したテキストを買ってくるケースです。たしかに不得意箇所だけをピックアップしたテキストはいかにも効率的で、心強い味方に思えるでしょう。しかし、この時期から新しいテキストに手をつける余裕が子供にあるでしょうか。だいたいの子供は優先順位がわからなくなって混乱し逆効果になります。そのため、問題集は増やさないというのが大原則です。
中堅以下の学校の場合、過去問を通して問題集の絞り込みを
志望校に合わせた指導を家庭教師にお願いしている場合は別ですが、大手中学受験塾の問題集を使っていると、実際の受験問題のレベルより問題集のほうが難しいという現象が起こり得ます。中堅以下の学校は難関校に比べれば全体的に問題が易しいからです。
加えて、中堅以下の学校の場合、難しい問題はある程度「捨て問」に回して基本的な問題を確実に解くようにすれば合格点が達成できます。
そのため、過去問で傾向がつかめたら、塾の問題集の基本・応用・発展のうちどのレベルまでを解く力が求められているかを見極めましょう。問題の絞り込みが必要です。
過去問は冬に入ってからの結果が大事
いよいよ受験本番間近の冬、過去問はどのぐらいできていればよいのでしょうか。
一月の時点で合格ライン達成を
その子の学力レベルにもよりますが、だいたい十二月中に合格ラインの七割以上、一月中に合格ラインに届くことを目安にしてください。
もちろん、それより早い時期に達成できていたほうが理想的です。しかし、実際にはギリギリの滑り込みになる子供が多くいます。
一月になっても、合格ラインに届かない子供もいるでしょう。そういう場合、親が喝を入れても残念ながら逆効果になりがちです。
時間がないことを前提に、どういった問題が解けたら合格できるかを塾や家庭教師とともに分析し対策を考えます。子供に「解けそうだった問題はどこか」「タイムロスした問題はどこか」をヒアリングして、問題集にわかるようマークをつけておきましょう。
過去問では合格ラインに届いているのに、模試の結果が悪い
過去問で合格ラインに届いていれば、模試の結果が悪くても気にする必要はあまりありません。模試はあくまで一般的な問題を採用しています。学校ごとに出題傾向は違いますから、「志望校の問題は得意だけれど模試の問題は苦手」という事態も起こり得るのです。受かりやすいのはもちろん、志望校の問題が得意な子供のほうですから心配いりません。
模試の合格率が本番直前で、40%程度にもかかわらず合格していく子供はたくさんいます。もちろん、過去問や模試が合格ラインに届いていない場合でも、当日得意な問題が出る可能性もありますし、最後まであきらめない姿勢が大切です。
実際、過去問が合格ラインにギリギリ届いていなくて、模試の結果も20%だったのに受かったケースを知っています。その子の場合は、過去問をやり込んで「今年はこの単元が出そう」という予測を先生と立てて、最後は予測した範囲だけを勉強していました。どのレベルを捨て問に回すかの話し合いもかなり力を入れていました。
受験直前に合格ライン。でも油断は禁物
「過去問が合格ラインに届いていて模試の判定が80%」という子供であっても、油断は禁物です。結果が順調な子供ほど、受験直前に失速します。過去にも「受かるから大丈夫だよ」と笑っていた子供が、最後の追い上げ時期に気が緩んでしまい、不合格となったケースがありました。
歴代の過去問がどれも合格ラインに届いているような子供は、受かる可能性が高いですが、当日の問題に限って苦手単元に集中した出題という事態もあり得なくはありません。最後の最後まで自分が苦手とする問題を一問でも多くクリアしてください。
秋の時点では過去問の合格ラインに届かなくても大丈夫
秋の時点で、合格ラインに届いている子供はほとんどいません。合格ラインの半分以下だとかなり追い上げなければ厳しいですが、それより上であれば受かる可能性は十分にあります。
家庭によっては夏休みの段階から過去問をやらせるところもあるでしょう。夏からやる際の注意点は、勉強が仕上がっていないため低い点数しかとれないことと、夏期講習に集中しきれないリスクがあることです。しかし、成績優秀者の中には、「長期休暇中のほうが時間の調整がしやすいから」と、自ら進んで過去問に挑戦する子供もいます。悪い結果が出ても、気合を入れられる子供の場合は大丈夫です。しかし、現実を突きつけられてやる気を失う子供もいるので、そこはフォローが必要となります。
十二月中までに合格ラインの七割以上、一月中に合格ラインに届くことが目標ですが、届かなかったとしても諦めないで、最後まで苦手単元の克服に努めましょう。出題範囲によってはギリギリ合格点がとれるかもしれません。
過去問を含めた6年生の一年間のスケジュールについては「学習スケジュールを見直そう。中学受験に向け6年生はどう勉強するべきか」をご参照ください。