中学受験においては男女ともに「御三家」と呼ばれる、成績優秀者でなければ入れないトップレベルの学校があります。「御三家合格」を受験目標に据えている家庭も多いことでしょう。この記事では、私立中学校受験を目指す家庭ならば知っておきたい、女子の御三家に関する情報を紹介します。
女子の御三家ってどの学校のこと?
女子の御三家とは、桜蔭・女子学院・雙葉の三校を指します。いずれも東京にある女子校であり、「東京の御三家」「関東の御三家」と呼ばれることもあります。ちなみに、女子学院はプロテスタント、雙葉はカトリックの学校でどちらもキリスト教系です。
高いキャリア形成を目指したい女子にとっては、優秀な大学への進学率の高さひとつとっても魅力的な学校だといえます。
女子の御三家。各学校の基本情報を見てみよう
女子の御三家それぞれの基本情報を見ていきましょう。
桜蔭の基本情報
桜蔭は以下のような学校です。
桜蔭設立の背景
設立されたのはさかのぼること大正13年。お茶の水女子大学の前身である東京女子高等師範学校の同窓会・桜蔭会が関東大震災後の女子教育機関の不足を受け、社会報恩の理念のもと、桜蔭を設立しました。
桜蔭の教育目標・校訓
桜蔭の建学の精神は「礼と学び」の心を養うことです。桜蔭高等学校進学にふさわしい品性と学識を備えた人間形成を教育の理念としています。校訓は「勤勉 ・温雅 ・聡明であれ」「責任を重んじ、礼儀を厚くし、よき社会人であれ」のふたつです。
桜蔭の教育環境
桜蔭には、天体観測ドームや温水プールなど私立らしい充実した設備がそろっています。
東大への進学率が際立って高い
桜蔭といえば、御三家の中でも東大の合格者数が際立って高いことで知られています。女子校の中では全国一です。2017年63人、2018年77人、2019年66人、2020年85人という高い実績を誇っています。
礼法の授業がある
中学一年生は礼法の授業を受けます。社会に生きる一人の人間として、人との関わりをしっかり認識し、目に見えない心のありようを美しい動作で表します。
立礼、座礼に始まり、体幹を保つ姿勢、歩き方、座り方、物の持ち方と受け渡し、食事の作法、訪問と来客接待の作法、襖の開閉など和室での所作を学ぶのです。
女子学院の基本情報
女子学院は以下のような学校です。
女子学院設立の背景
女子学院は1870(明治3)年にジュリア・カルゾロスによって設立された、A六番女学校に始まるキリスト教主義の学校です。A六番女学校の精神は、婦人宣教師や他の女学校にも引き継がれました。
その後、1890年に桜井女学校と新栄女学校が合併して「女子学院」が設立されたのです。
女子学院の教育目標・校訓
自らを治める高い知性と高尚な志を持ち、神と人とに仕える自立した女性であることが求められます。
女子学院の教育は、人間を超えた存在や永遠の真理へ畏敬の念、知的水準の高い教育を通して養う自主自立の精神、他者に仕える心の育成などを根幹に据えています。
女子学院の教育環境
天文ドームやトレーニングルーム、屋上庭園などの充実の設備がそろっています。
難関大学への合格者数が安定している
2021年度の東大への合格者数は既卒1名を含む22名です。医学部、国公立大学や難関私立への合格者数も多いですし、指定校推薦依頼も多々あります。
進学校には珍しく週五日制を維持。校則はほとんどない
進学校は、有名大学の合格率が重要なアピールポイントとなるため、週六日制のカリキュラムで勉強時間が多く設定される傾向にあります。
しかし、女子学院は進学校としては珍しく週五日制を採用しているのです。自主自立の精神を重んじ、制服もなく校則による縛り付けもほとんどありません。御三家の中でも際立って自由な学校だといえるでしょう。
ただし、それは自由に伴う責任を生徒各自が引き受けて成立するのです。女子学院における自由とは、「主を畏れることは知恵の初め」という聖句が示すように、真理の前に立つ人間の敬虔を前提としています。
生徒会やクラブ活動といった活動が盛んなのも、こうした生徒の主体性を重んじる校風を受けてのことです。
雙葉の基本情報
雙葉は以下のような学校です。
雙葉設立の背景
雙葉は17世紀フランスで創設された、修道会を母体とするカトリックの学校です。1875(明治8)年、築地明石町に雙葉学園の前身「築地語学校」を設立。1909(明治42)年に「雙葉高等女学校」を開校しました。
現在、幼稚園から高校まで女子の一貫教育を行っています。
雙葉の教育目標・校訓
雙葉では、カトリックの精神に基づき、生徒一人ひとりを大切にする全人教育が行われています。真の知性を養い、自らの考えや判断の下で行動し、結果に責任を持つ人間の育成を目指しています。
雙葉の教育環境
校舎全体がゆとりを持った作りとなっていて、各種特別教室も充実しています。
医学部に進学する生徒が多い
雙葉は医学部への進学率が高いです。2021年度の医・歯・薬系合格者数総数は既卒含めて79人。なお、東大合格者数は2020年は合計10名(うち現役7名)、2021年は全員現役合格で8名です。
フランス語を学べる語学重視の学校
雙葉の特徴として英語のみならず、フランス語も学べる語学重視の学校である点が挙げられます。
中学校の教育課程では英語・仏語と二科目が用意され、高校になるとコミュニケーション英語、英語表現、英語会話、コミュニケーション仏語、仏語表現、仏語会話と多角的な教育内容になります。
女子の御三家を比較してみよう!
御三家の各学校の特徴がわかったところで、それぞれを比較してみましょう。
女子の御三家の学費はそれぞれいくら
まず気になるのが学費です。2021年度の初年度納入金を三校で比較してみます。
入学金 | 年間授業料 | その他 | 初年度納入金 | |
---|---|---|---|---|
桜蔭中学校 | 380,000円 | 447,600円 | 218,500円 | 1,046,100円 |
女子学院 | 380,000円 | 492,000円 | 255,020円 | 1,127,020円 |
雙葉 | 240,000円 | 529,200円 | 243,600円 | 1,012,800円 |
上記の納入金以外に、桜蔭中学校は校服代が約49,000円。寄付金は1口100,000円で2口以上お願いされます。女子学院では寄付金1口100,000円で3口以上をお願いされます。雙葉は初年度だけ見ると一番安く、寄付金は1口50,000円からです。
つまり初年度納入金では安い順に雙葉、桜蔭、女子学院の順になります。
女子の御三家の入試における実質倍率はどこが高い
三校の2021年度の受験者、合格者から倍率を比較してみます。
受験者数 | 合格者数 | 倍率 | |
---|---|---|---|
桜蔭中学校 | 561人 | 283人 | 約2.0倍 |
女子学院 | 664人 | 274人 | 約2.4倍 |
雙葉 | 357人 | 115人 | 約3.1倍 |
雙葉は幼稚園・小学校も展開している学校ですから内部進学も多く、合格者数が少なく設定されていることがわかります。結果として倍率の高さは雙葉、女子学院、桜蔭の順番です。桜蔭が御三家の中で一番倍率が低いという結果は、桜蔭の頭ひとつ抜きんでたレベルの高さを考えると意外に感じる人が多いかもしれません。
女子の御三家の偏差値はどのぐらい?
2021年度の四谷大塚の偏差値では、桜蔭中学校(71)・女子学院中学校(69)・雙葉中学校(68)です。
ちなみに、豊島岡女子学園中学校の偏差値が70なので、偏差値を基準にすると御三家以外にも優秀な学校は存在します。御三家に続く学校としては浦和明の星女子中学校(65)・鷗友学園女子中学校(65)・洗足学園中学校(65)・フェリス女学院中学校(65)が挙げられます。
女子の御三家で難関大学合格率が高いのは?
女子の御三家の難関大学への合格率を見ていきましょう。
東大合格率で高い実績のある桜蔭
現在、難関大学への合格率で一番成果をあげているのは桜蔭、次いで女子学院、雙葉の順番です。桜蔭はなんといっても東大合格者数の多さでその名を知らしめています。
東大は男子の多い大学です。2019年4月12日、東大の入学式で東大名誉教授上野千鶴子氏による祝辞が話題になりました。東大に存在する男女のジェンダー格差や経済格差を指摘する内容でした。ジェンダー格差に関しては、東大において女子の入学者が全体の二割以上になった年度はないという事実があります。
そんな中で、2020年度東大の合格者数全国3位という快挙を成し遂げた女子校がありました。それが桜蔭です。開成、筑波大駒場に次ぐ順位でした。2021年度は7位と惜しくも順位を下げていますが、やはり上位にランクインしています。ちなみに2021年度の順位では、女子学院は27位、雙葉は62位です。
医学部への進学率が高い
桜蔭も女子学院も雙葉も、東大以外の難関大学へもたくさんの生徒が進学しています。どの学校も医大への進学率の高さが顕著です。たとえば桜蔭は文系・理系でコースが分かれることはなく選択科目式ですが、三分の二の生徒が理系科目を選択し、そのうちの約半分が医学部に進学しています。
最近の女子校は理系の割合が以前に比べて増えていて、共学ならではの「女子なら文系が多い」といったステレオタイプな思い込みを生徒が持つこともありません。なお、理系が顕著な学校といえば、御三家に匹敵する偏差値の豊島岡女子学園中学校が代表格として挙げられます。生徒の進学先の四分の三が理系です。
女子の御三家、校風はどこが合う?
女子の御三家の校風を比較する際に、よく持ち出されるたとえ話を知っていますか。道ばたに落ちているジュースの缶に、各学校の生徒がどのように対応するかというものです。
桜蔭生は読書に夢中でそもそも缶の存在自体に気付かない。雙葉生はゴミが落ちていると、拾って処分する。女子学院生は缶蹴り遊びに興じる。
もちろん、たとえ話ですから極端な表現ではあります。実際の対応は、個人差があって当たり前です。しかし、真面目にコツコツ勉強していく桜蔭、自由で伸び伸びしている女子学院、お嬢様学校としてマナーを守る雙葉という、世間の評価は知っておくとよいでしょう。わが子はどんなタイプかを考えて合う学校を選ぶとよいです。
なお、雙葉に関しては「お嬢様学校のイメージが強いが、実際には自主自立の精神で学校生活を送っている」といった声も内部からよく聞こえてきます。
女子御三家への合格実績が高い塾とは。塾だけで合格できる?
実際に御三家のいずれかの学校に入学するには、どうしたらよいのでしょうか。ここ最近の大手中学受験塾の合格実績をたどっていくと、サピックスが5年連続でダントツ首位の結果です。
直近5年の女子御三家におけるサピックスの占有率を見ると、桜蔭が約6割、女子学院が約5割、雙葉が4割5分程度となっています。サピックスは質の高いカリキュラムと指導力で毎年難関校受験において、とびぬけて高い合格実績を出している塾です。
その一方で、サピックスのカリキュラムはハイレベル、ハイペースで、宿題も多いです。自習室もないことから、主体的に家庭学習をするのが苦手な子供は、落ちこぼれてしまいがち。家庭学習のフォローを家庭教師に一任する家庭も多いので、受験勉強が軌道に乗らない場合は検討してみるとよいでしょう。
女子の御三家を知って、わが子に合った学校を選ぼう
女子の御三家とひと括りにして呼ばれる桜蔭・女子学院・雙葉の三校ですが、教育方針も校風もそれぞれ異なります。偏差値だけで志望校を検討する家庭も少なくないですが、ぜひまず校風を知るところから始めてみてはどうでしょうか。
わが子がどんな学生生活を送りたいか、なにを目指したいか。そのために合う学校はどこかを考えてみてください。各学校の情報をできる限り把握して、せっかくの六年間を合わない学校に費やさないようにしたいものです。
真面目にコツコツと努力を重ねる桜蔭、自主自立の気風が強い女子学院、他二校とは違い内部進学者が多い雙葉。学費や偏差値、進学率、実質倍率の高さなどのデータを知り、具体的な対策を立てて臨みましょう。
高いキャリアを目指す女子にとっては、しっかりと学力を身に着けた上で幅広い選択肢を得られる女子の御三家は魅力的な進学先です。