首都圏では中学受験は珍しいものではありません。割合としては7人に1人が中学受験をしているのが現状です。都内に限定すればもっと多くの子供が中学受験をしています。
ただし、中学受験は子供に「受けてみたい」と言われてすぐゴーを出せるようなものではありません。塾や家庭教師といった受験対策にかかるお金、入学後の学費といった問題があるためです。
この記事では中学受験に必要な学費について紹介します。
中学受験対策に必要な費用はどのぐらいか
中学受験をする子供の多くが塾に通ったり家庭教師に学んだりしています。中学受験対策の費用はどのぐらいかかるのでしょうか。
大手中学受験専門塾にかかる費用
大手中学受験専門塾では、小学3年生の2月から中学受験対策を始めます。受験が終わるまでの約3年間でかかる費用はなんと200万円にものぼります。うち100万円は、レギュラーの授業を受けるのにかかるお金です。
多くの家庭では、塾代を考える際に、ついこのレギュラーの授業料だけを想定しがちですが、残念ながらその他にも多くの出費が発生します。テキスト代、テスト代、季節講習の費用やオプション講座の費用を合わせると、更に100万円はかかります。
注意しなければならないのは、入塾時の費用は安めに済む点です。塾に入る際には、必ず卒塾までにかかる費用を確認しておくことをおすすめします。学年が上がるごとに授業時間や授業回数、科目などが増えていくため、学費も段階的に上がっていく仕組みです。6年生になると、4年生時の倍以上かかるような料金設定は珍しくありません。
加えて、中学受験では成績が上がらない場合、個別指導コースや家庭教師を追加し、フォローしてもらうのが一般的です。その場合、出費はもっと増えてしまいます。
大手塾は都会の駅に隣接するケースが多いので、交通費もいくらかかるか算出しておきましょう。
個人塾や中小規模の塾にかかる費用
個人塾や中小規模の塾は、価格を安く設定して大手と差別化しているところが多くあります。そのため、安い塾であれば、大手の半分程度の費用で通えてしまうのです。
難関校への実績を売りにしている塾では、大手とさほど変わらない価格設定のところも。個人塾や中小規模の塾は良心的で地元に愛されている塾がたくさんあります。
一方で、悪質な塾もないわけではありませんので、下調べや見学をして信頼できるところを選ぶとよいでしょう。
家庭教師にかかる費用
中学受験対策の家庭教師にかかる費用は、契約の仕方によって大きく変わってくるため、一概には言えません。大学生との個人契約であれば比較的安く済み、一時間2,000円ぐらいから引き受けてくれます。
プロの家庭教師との個人契約・家庭教師センターを通した契約は一時間3,000円ぐらいからです。トラブル時の対応を考えるなら、家庭教師センターを通した契約のほうがフォローが期待できるため安心です。
家庭教師は指導力や実績によってランク分けされていて、一流の教師に依頼しようとするとその分費用もかかります。週あたりの利用回数によっても、大きく変わってくるところです。
私立中学の受験料はどのぐらいか
私立中学の受験料はだいたい2~3万円です。何校受験するかによって総額は変わってきます。午後入試や複数回入試を導入している学校も増えてきました。総額で10万円以上かかると覚悟したほうがよいでしょう。
合格したあとにかかるお金について知っておこう
合格したあとにかかるお金は以下のとおりです。
入学手続時納付金および学校債・寄付金
一般的には「入学金」で知られる「入学手続時納付金」。金額は平均して25万円程度です。更に、学校債・寄付金といった名目でお金を集めている学校もあります。
学校債・寄付金は原則として任意です。ただし、「払うのが当たり前」になっている学校も中にはあり、なかなか「イヤ」と言い出せないケースもあります。
私立中学にかかる学費は平均でどのぐらいか
私立中学にかかる平均的な学費とはどのぐらいなのでしょうか。
文部科学省の平成30年度「子供の学習費調査」のなかで、私立中学の年間の学習費総額は1,406,433円です。以下、内訳を見ていきましょう。
【私立中学の年間の学習費総額内訳】
学校教育費 | 1,071,438円 |
---|---|
学校給食費 | 3,731円 |
学校外活動費 | 331,264円 |
計 | 1,406,433円 |
よく知られているとおり、私立中学は公立中学に比べて学費がかかります。公立中学の学習費総額は488,397円。比較するとおよそ2.9倍です。2.9倍なのは、学校教育費の違いによります。公立中学校は138,961円ですが、私立中学は1,071,438円です。約7.7倍で、負担の大きさが全く異なります。私立中学へ行くためには経済的な余裕が必要なのです。
ただし、学校外活動費のなかの補助学業費、つまり塾代などは私立中学に通う子供のほうが安く済んでいます。私立中学のほうが公立中学に比べて、補習をはじめとする学習のフォローが手厚いことも影響しているでしょう。それでも、中学1・2年生の間の補助学業費は、私立中学校のほうが多少上回っています。
大きく差がつくのは、中学3年生です。私立の中高一貫校に通えば、高校受験はありません。そのため中学3年生の間の塾代は少なめで済みます。私立高校と公立高校での補助学業費を比較すると、私立高校が上回るため、受験の有無は大きいことが推測できます。
ちなみに、補助学業費の私立中学および公立中学における推移は、文部科学省の平成30年度「子供の学習費調査」のデータによると以下のとおりです。
【私立中学および公立中学の補助学業費】
私立中学校 | 公立中学校 | |
---|---|---|
1年 | 約17万8千円 | 約14万7千円 |
2年 | 約22万7千円 | 約21万5千円 |
3年 | 約25万7千円 | 約36万3千円 |
計 | 約66万2千円 | 約72万5千円 |
公立中学校は3年生になると、私立中学校より10万6千円も高くつくことがわかります。
学校教育費って具体的にどんなものなの?
文部科学省の平成30年度「子供の学習費調査」によれば、私立中学校での支出のなかで、とりわけ多くを占めるのは学校教育費です。学校教育費の内訳を見ていきましょう。
【私立中学校の学校教育費の内訳】
授業料 | 428,574円 |
---|---|
修学旅行、遠足、見学費 | 82,578円 |
学校納付金等 | 305,130円 |
図書・学用品・実習材料費等 | 50,198円 |
教科外活動費 | 55,796円 |
通学関係費 | 140,765円 |
その他 | 8,397円 |
計 | 1,071,438円 |
対して公立中学校の内訳は以下のとおりです。
【公立中学校の学校教育費の内訳】
修学旅行、遠足、見学費 | 26,217円 |
---|---|
学校納付金等 | 16,758円 |
図書・学用品・実習材料費等 | 25,413円 |
教科外活動費 | 29,308円 |
通学関係費 | 37,666円 |
その他 | 3,599円 |
計 | 138,961円 |
比べてわかるように私立中学では授業料や学校納付金の額の大きさがネックになります。多くの生徒が通学に交通機関を利用するため、通学にかかる費用も大きく異なるのがポイントです。
私立中学に進むにあたって出費を安く抑えるには
私立中学に進むのにはお金がかかります。少しでも出費を抑えるためには以下の方法があります。
私立小中学校等修学支援実証事業費補助金
私立中学に進学するにあたり、年収400万円未満の家庭だからこそ利用できる制度もあることは知っておいたほうがよいでしょう。文部科学省が平成29年度から実施している「私立小中学校等に通う児童生徒への経済的支援に関する実証事業」の「私立小中学校等修学支援実証事業費補助金」がそれに該当します。
この補助金は、私立中学に通う理由や家庭の経済状況を把握する目的で、平成33年度まで行われる予定です。私立の小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校(前期課程)、特別支援学校(小学部、中学部)の生徒を対象にしています。最大年額10万円の補助です。
各学校の奨学金制度は大きく分けて二種類
他にもそれぞれの学校で奨学金制度を設けていますから、利用する手もあるでしょう。奨学金制度は大きく分けて2種類です。学費の支払いが困難な子どもを支援するもの、成績優秀者がより一層勉学に打ち込むよう奨励するもの。とりわけ前者の、経済的支援の奨学金が多いです。両方の制度を備えている学校もあります。
中学受験をするために必要な年収はどのぐらい?
入学前の段階で、かかる費用の目安としては、小学4年生で年間約40〜50万円、5年生で約60〜70万円、6年生で約100〜120万円と言われています。最終的には月8万~12万ぐらいの負担がかかるというわけです。
私立中学入学後は、学習費総額が年額1,406,433円なので、月あたりで考えると約117,202円です。およそ月12万円ぐらいを教育費に回す必要性が出てきます。あとは月の生活費をどのぐらいまで切り詰められるかです。
一般的には年収600万円からといわれていますが、実際のところきびしいと言わざるを得ないでしょう。年収600万円の場合、手取りで470万円ですから、月当たりは約39万円。月あたりの教育費の12万円を引いて27万円。そこから残りのすべてを捻出しなければなりません。
お金をかけずに、よい教育環境に身を置く方法は
よい教育環境に身を置きたいと考える人はたくさんいます。私立中学に進むばかりが選択肢ではありません。以下、私立中学以外の進路を紹介します。
公立の中高一貫校や国立の附属を受験しよう
私立中学が経済面でハードルが高いのであれば、中高一貫の公立中学や国立の附属を検討するのもよい方法です。ただし、公立の中高一貫校や国立の附属に入りたいと考える人は非常に多く、高い倍率を勝ち抜く必要があります。入学後の学費は安くて済みますが、場所によって通学の費用はかさむので注意してください。
公立の中高一貫校・国立の附属は私立中学となにが違うのか
公立の中高一貫校は、私立の中高一貫校よりも多様な背景を持つ子供が集まります。経済面でのハードルがあまり高くないためです。受験では思考力や問題解決力を問われることが多くあります。
私立中学に比べて多くの記述問題が出されるため、書く力が重要です。国立の附属は大学の方針によって出題傾向が大きく異なります。塾や家庭教師のコース編成では、私国立をひとつにまとめて、公立は別途コースを用意しているところが多いです。
塾や家庭教師なしで中学受験は可能か
公立や国立の附属ではなく、「どうしても私立中学に行きたい」と考える人もいることでしょう。その場合、「特待生枠のある塾に入塾し、志望校にも特待生枠で合格」できれば費用を安く抑えられますが、とびぬけた優秀さが求められるのは言うまでもありません。同じくハードルは高いですが、「塾にも家庭教師にも頼らずに、志望校に特待生として合格」という道もあるにはあります。ただ、基本的に独学での中学受験合格は難しいです。
「親が教えるからよい」と考える向きもあるでしょうが、中学受験対策は広い出題範囲を、いかに最短でカバーするかが問われます。だからこそ優れたカリキュラムの塾や経験豊富な家庭教師が人気を集めるのです。
更に、塾や家庭教師は最新の受験情報の提供や、モチベーションの向上といった役割も担います。そのため、親が高学歴で中学受験の問題を教えられるだけの学力を有していたとしても、それだけでは塾や家庭教師の代わりは務まらないのです。
特に難しいのがモチベーションの部分。親子間で緊張感を保ちながら受験に臨むのは至難の業です。よほど本人にやる気がないと実現しません。
高校では助成金を受けられる可能性も
私立の中高一貫校に進学すると、高校まで高い学費がかかるものです。しかし、2020年4月から私立高校授業料実質無償化が始まります。対象は、目安年収が約590万円以下の世帯のみです。ただし、共働きかどうかや家族構成によってこの目安年収は変わってきます。
また、東京都のように、すでに独自の助成金を用意している自治体もありますので、自分の自治体にどのような制度があるか確認したほうがよいでしょう。
計画的に費用を用意。進学が難しいときは子供に説明を
「中学受験をしたい」と子供に切り出されても、塾代や家庭教師代、高い学費を払える家庭は限られています。事前にいくらぐらいかかるものかを知っておかないと、途中で払えなくなる事態に陥りかねません。かかる費用と活用できる制度は事前に調べておきましょう。それでも、子供の望む進路が難しい場合は言葉を尽くして説明しましょう。
兄弟姉妹がいる家庭では、片方にだけお金をかけると愛情に偏りがあるものと受け止められかねません。できるだけ公平に分配するようにしましょう。