「中学受験は親の受験」とはよく言ったもので、子供はもちろん親も相応の負担を覚悟しなければなりません。ときには「もう中学受験を断念したほうがよいのではないか」と感じる場面もあることでしょう。この記事では、中学受験において辛くなりがちな事例やその場合の対処法について紹介します。
中学受験対策において悩み多き時期はいつ頃?
中学受験対策において悩み多き時期とはいつ頃か、親子それぞれの立場で見ていきましょう。
中学受験はもう嫌だ。子供の悩み多き時期
首都圏における中学受験対策は、大手中学受験専門塾の場合だと、小学3年生の2月から始まります。だいたい5年生ごろになると授業が過密になり、「ついていけない!」と言い出す子供が一定数出てくるものです。
家庭教師の場合も同様で、段階的に授業内容の難易度が上がり、5年生ごろには扱う内容量も増えていきます。そうなってくると、予習・復習・宿題と否応なしに勉強に追われ、自由な時間がほとんど持てません。加えて、受験が近づくにつれて皆が真剣に勉強に励むようになります。成果が出づらくなり、「勉強するだけ無駄ではないか」と実力不足に打ちのめされる子供が出てくるのです。
中学受験に疲れた。親だって悩むことも
中学受験に挑み続け、疲れやプレッシャーから気が滅入ってしまうのは、なにも子供ばかりではありません。伴走者として寄り添う親も同様に、ハードな毎日です。塾の送迎や弁当作り、宿題のチェック、子供への声かけなど親の役目は多岐にわたります。
子供が次々と新しい内容を学ばなければならないのとは違い、親のサポート内容に大きな変化はありません。しかし、学年が上がれば上がるほど「必要なサポートの量」は膨れ上がります。週当たりの通塾回数や家庭教師の授業数が増えるからです。
子供が塾に通っている場合は、送迎や弁当作りの頻度も必然的に増加します。家庭教師の場合は、送迎や弁当こそ必要ありませんが、先生を迎えるため、その都度片付けに追われる家庭もあることでしょう。
加えて、宿題のチェックや、子供への声かけ、家に蔓延するストレスへの対応。親に求められる要素は盛りだくさんです。受験が近づくにつれ、親子ともどもイライラが増して、家庭内の空気がどんどん悪化するなんて事態に陥りかねません。
中学受験が嫌。辛い。やめたい。親子の気持ちにどう対処?
親子それぞれが中学受験に疲れたら、どういった対処法をとるべきなのでしょうか。
子供が受験勉強をしたがらない場合
塾や家庭教師を利用している場合は、先生と話し合いの場を持ちましょう。子供が抱えている問題点を解決する手立てがないか、助言を仰いでみてください。
苦手単元を徹底的にフォローしてもらったり、宿題を特別な内容にしてもらったりといった工夫で、ある程度改善できるかもしれません。
中学受験に対して親が息切れしている場合
まじめで一生懸命な親ほど、中学受験のサポートを全力で頑張って、息切れしてしまいがちです。そうした場合は、「親の負担を最小化する方法」を模索する必要があります。一番抜本的なのは、子供が利用している教育サービスの変更です。教育サービスによって家庭に求める負担の量は大きく異なります。子供の面倒をしっかり見てくれる塾や家庭教師を見つけましょう。
なんのために中学受験をするのか改めて考えよう
「中学受験を本当にやめるべきかどうか」は慎重に検討したほうがよい問題です。そもそも、自分たちはなんのために中学受験を目指したのかから整理してみましょう。
中学受験を希望する家庭の多くは「将来、子供を医者などの高学歴を要する仕事に就かせたい」「高校受験で苦労してほしくない」「自分も中学受験をしたから子供にも同じ道を用意したい」などの理由で受験に挑むものです。
しかし、実はこの3つは中学受験を続ける上での決定的な決め手にはなりません。公立中学からでも難関大学に入学して学歴の要る仕事に就くことは可能ですし、高校受験より中学受験のほうが大変なケースも多いです。自分と同じ道が子供にとって最良の道かどうかについては、子供の適性を踏まえてしっかりと検討する余地があります。
中学受験に挑んでいるうちに、合格自体が目的化してしまい、「なぜ受験をするのか」「本当にそれが子供にとってよいことなのか」を疎かにする家庭は多いです。そうした家庭では受験が本格化していくにつれ、子供のモチベーション維持が大変になる傾向にあります。
いま一度、中学受験のメリットを整理しよう
中学受験が嫌になったら、やめるか続けるかを考えなければなりません。一度、改めて中学受験のメリットについて整理してみましょう。
高校受験なしで附属の大学も視野に
中高一貫校に進めば高校受験をしなくて済みます。「子供に楽をさせてあげたい」と考えて中学受験を選択する家庭は多いです。
ただし、中学受験が高校受験より楽というわけではありません。中学受験の試験問題は、小学校の授業レベルよりはるかに難しいです。そういう意味では、高校受験より大変といっても過言ではないでしょう。
それでも、高校受験の必要性がなくなることで、部活動に専念したり目の前の勉強に集中できたりするのは大きなメリットです。そのまま附属の大学に進学できる学校なら大学受験もパスできます。
各学校ごとに異なる特徴的な校風
地元の公立中学とは異なり、はっきりした校風を打ち出す学校が多いです。自分に合った学校はどこか、通える範囲から自由に探すことができます。
大学受験に向けた準備に専念可能
私立中学は、公立中学より授業速度が速い学校が大半です。高校最後の一年間は大学受験に向けた準備に専念できるよう、先取りのカリキュラムが組まれています。高校3年生時は余裕をもった大学受験対策が可能です。
よい設備に恵まれていて課外活動も充実
予算の少ない公立中学とちがい、私立中学の設備は整っています。乗馬やゴルフといった公立では少ない部活も多いです。やりたいことが明確な子供にとっては、選択肢、内容ともに充実していることが多いです。
手厚いフォローで塾代を節約
子供の勉強を補習で手厚く見てくれる学校であれば、塾代などにかかる費用はぐっと抑えられます。実際、平成30年度の文部科学省の「子供の学習費調査」の結果によると、学校外活動費の中に含まれる補助学習費、つまり塾代などは、私立中学校に通ったほうが安くついているのです。公立中学校に通う生徒は一年あたり24万4千円。対して、私立中学校に通う生徒は一年あたり22万円と、2万4千円も安くなっています。
共通点の多い子供が集まる
学力、家庭環境などで共通点の多い子供が集まるため、友達と価値観を共有しやすいでしょう。
- 高校受験なしで附属の大学も視野に入れることができる
- 各学校ごとの異なる校風を比較可能
- 大学受験に向けた準備に専念可能
- 設備に恵まれ課外活動も充実している
- 手厚いフォローで塾代を節約できる
- 共通点の多い子供が集まる
中学受験を目指す上でのデメリットも知っておこう
メリットだけではなくデメリットも知った上で、中学受験をやめるか続けるか判断することが必要です。
入学するまでの負担が大きい
中学受験対策のため、たいていの子供は早いうちから塾に通って学力向上を図ります。費用もけっして安くはなく、大手塾に小学4年生から3年間通うと約200万円です。費用面だけではなく、送迎、宿題のチェック、プリント管理、弁当の準備、塾との面談、子供への声かけなど、親にかかる負担も大きいです。
地元の友達と学校が違う寂しさ
中学受験が定着している地域では、私立中学に行く友達も多いです。しかし、小学校の友達の多くはそのまま公立中学に進みます。内心で子供は「仲の良い友達と別れたくない」と悩んでいるかもしれません。別れを受け容れられるかどうか子供との話し合いが必要です。
長時間通学で疲労困憊
中学受験後は、交通機関を利用して遠距離通学をする子供が多いです。地元であればすぐに通えるのに、わざわざ遠方まで毎日出向くだけの価値があるか、検討してみてください。実際、志望校に行けたものの通学時間で疲れ果ててしまうケースがよくあります。
授業速度についていかなければならない
私立中学のレベルにもよりますが、公立中学に比べてスピードが速く、内容も高度であるケースが多いです。予習・復習を効率的にこなしていかなければ回りません。
公立中学に行くより経済的負担がかなり大きい
公立中学に行くよりはるかに高い学費がかかります。文科省の「平成30年度子供の学費調査」によれば、公立中学校と私立中学校では学校教育費に大きな開きがあるのです。公立中学校は年間で138,961円ですが、私立中学は1,071,438円と大きく上がります。そのため私立中学に進学するなら、計画的に費用を用意しなければなりません。
- 入学するまでの負担が大きい
- 地元の友達と学校が違う寂しさがある
- 長時間通学で疲労困憊してしまう
- 授業速度についていかなければならない
- 公立中学に行くより経済的負担がかなり大きい
中学受験をやめるかどうかの決断は?
もしも中学受験をやめるなら、決断は早いほうがよい
中学受験のメリットとデメリットを理解したら、それらを比較した上で、「本当に中学受験を続けたほうがよいか」を改めて検討してみてください。
特に、「大学進学に有利そうだから行く」「難関校だから行く」といったぼんやりしたイメージで中学受験を決めた家庭は、慎重な再検討をおすすめします。中学受験をやめるなら決断は早いほうがよいです。理由は主に二つあります。
一点目は教育費がかかってしまうということ。中学受験専門塾の塾代は高いです。入塾時の金額×学年分ではない点に留意する必要があります。学年が上がるほど費用が上がる仕組みです。
更に季節講習やオプションを追加する必要もあり、予想以上にお金がかかってしまいます。なお、家庭教師の場合は各家庭のニーズに臨機応変に対応しますが、本気で合格を目指すなら授業数は増やさざるを得ないケースが多いです。
二点目は挫折感の問題です。やめたいけれどふんぎりがつかない状態で、ダラダラと中学受験を続けてもあまりよい結果は期待できないでしょう。結果、まさかの全落ちなどという事態になれば、挫折感が今後の人生に影を落としかねません。できれば小さいうちは、ひとつでも多くの成功体験を通して子供に自信をつけさせたいものです。
やめるのは簡単だが判断は慎重に
子ともは一時の感情で「やめたい」と口にするものです。経済的な理由などで中学受験を断念する場合を除き、子どもの感情に引っ張られての判断でやめた場合には後から後悔して再挑戦するケースがよくあります。ただ「やめたいからやめる」というのではなく、止めたい理由をしっかりと聞き出した上で子供と親と双方の将来的なビジョンを伝え合うことが大切です。
- 教育費がかかってしまう
- 挫折感が出てしまう
中学受験を諦めたくないが成績が上がらない場合
「中学受験専門塾」と「家庭教師」を利用していて、成績が上がらない場合は「今」の環境を変えてみるのも一つの手です。
中学受験専門塾に通っている場合、塾が合わずストレスになっている子供は思い切って退塾や休塾、転塾を検討してみましょう。
ただし、いずれもリスクの高い選択肢であることは認識しておきましょう。親は休塾のつもりでも、子供に復帰する気がなくそのまま退塾になるかもしれません。次の教育サービスをどうするか、ある程度考えておいたほうがよいでしょう。
家庭教師サービスを活用していて、授業にストレスを感じている子供は、先生との相性が悪かった可能性があります。無料で交代できるところがほとんどですから、一度先生交代をお願いしてみるとよいでしょう。
休会は休塾同様にリスクがありますが、子供の気持ちを大事にする選択肢として有効です。家庭教師サービスは塾や通信教育との併用もしやすいですから、一度活かし方を変えてみるのもよいでしょう。子供のモチベーションに変化が起きるかもしれません。
- 塾をやめてほかの教育サービスを利用する
- 休塾をして気分を変える
- 転塾をして環境を変える
- 家庭教師の交代サービスを利用する
- 休会して気分を変える
- ほかの教育サービスを併用する
中学受験が辛いときはその気持ちを否定しない
「中学受験って楽しい!」と心から思える子供はごくひと握りです。多くの子供は「辛い」「苦しい」「やめたい」という気持ちにとらわれてつまずく時期を経験します。
ですから、わが子のやる気がなくなったからといって、特段慌てる必要はありません。誰しもが通る道だと思って、子供の辛さを受け止めてあげましょう。その上で、気持ちを落ち着かせてから今後どうするか話し合いが必要です。
中には、中学受験を断念せざるを得ないケースもあります。その場合はできるだけ早く子供の気持ちを切り替えさせましょう。引きずっては大変です。
逆に子供ではなく親のほうが辛さを感じている場合はもう少し複雑です。親はどれほど精神的に参っていても、「辛い」と弱音をこぼしづらい立場にあります。せめて、ひとりでため込まず夫婦間、あるいは塾や家庭教師と悩みを共有しましょう。事情を知れば、学習チェックなどの作業を、塾や家庭教師が引き受けてくれるかもしれません。もし引き受けてくれなければ、臨機応変に対応してくれる塾や家庭教師センターを新たに探してみることをおすすめします。